履行義務の識別とは
次にStep2「履行義務の識別」をみていくことにしましょう。Step2の「履行義務の識別」は、Step1で収益認識の対象となったもののうち、どのような種類の商品やどのような種類のサービスをお客さんに提供するか識別するもので、このうち「履行義務」とは、「収益認識に関する会計基準第7項」で以下のように定義されています。
「履行義務」とは、顧客との契約において、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。
(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)
うーん、わかったようなわからないような定義になっています。
車を販売しているディラーを例に少し理解を深めていきましょう。
例えば、HONTAというカーメーカーがあり、車を製造及び販売並びにその保守サービスを提供していたとします。
そしてお客さんと契約を行う際に、その契約には車の販売と保守サービスが含まれていたとします。
この場合における履行義務はどれが該当するのでしょうか。
上記の例でいうと、履行義務はお客さんに車が乗れるような状態で渡すことと、将来の車の保守サービスを行うことが該当します。
ここで、再度「履行義務」の定義に当てはめて見ましょう。
「履行義務」とは、顧客との契約(上記の例でいうところのディラーとお客さんとの契約)において、
(1)別個の財(上記の例でいうところの車)又はサービス(上記の例いうところの保守サービス)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。
当てはめてみると少しわかりやすくなるかと思います。なお、「いずれかを顧客に移転する約束」となり、なぜ「いずれ」なのに上記の例だと車を渡すことと、保守サービスの2つがあると思われた方もいらっしゃるかもしれません。
ここが、この収益認識基準のポイントとなるのですが、上記の例でいうところの車を渡すことと、保守サービスは別々の履行義務として識別してくださいということがこの基準のポイントとなります。
すなわち、Step2の履行義務の識別単位に応じて、後ほど説明するStep5の履行義務の充足要件を認識していくこととなります。
このため、収益を認識する際も車を渡した収益と、保守サービスの収益を別々に認識することを求めています。
それでは、「(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)」はどのようなものを想定すればいいでしょうか。
「収益認識に関する会計基準第33項」では以下のように記載されています。
前項(2)における一連の別個の財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、顧客への移転のパターンが同じであるものとする。
(1) 一連の別個の財又はサービスのそれぞれが、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと
(2) 履行義務の充足に係る進捗度の見積りに、同一の方法が使用されること
上記については、電気料金の請求なんかをイメージしていただければ、わかりやすいかもしれません。電力会社は各家庭に使用料に基づいた電気料金を請求しますが、
末締めであれば、末締めの家庭を同じ電気メーターに基づく請求を行うことにより請求が可能であり、特性が実質的に同じといえます。
このような場合、一連の別個の財又はサービスとしてとらえることができるかと思います。
なお、「別個の財又はサービス」について「収益認識に関する会計基準第34項」では以下のように記載されています。
顧客に約束した財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、別個のものとする
(1) 当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が
容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること(すなわち、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があること)
(2) 当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること
(すなわち、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなること)
上記なような基準に従って、履行義務の識別を行っていくこととなります。
まとめ
「Step2 履行義務の識別」は、顧客との契約において、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。
(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)