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2.リース期間
17.借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間の両方の期間を加えて決定する(会計基準第31項)。
借手は、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮する([設例8-2]から[設例8-5])。これには、例えば、次の要因が含まれる。
(1)延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
(2)大幅な賃借設備の改良の有無
(3)リースの解約に関連して生じるコスト
(4)企業の事業内容に照らした原資産の重要性
(5)延長オプション又は解約オプションの行使条件
Ⅱ.借手のリース期間
[設例8] 普通借地契約及び普通借家契約における借手のリース期間
[設例8]の普通借地契約及び普通借家契約の設例における解約不能期間の判断、経済的インセンティブの分析、シナリオ、借手のリース期間の判断等については、借手のリース期間の決定に至る思考プロセスや借手のリース期間の判断のための手掛かりの例示であり、前提条件や企業のビジネスモデルが異なる場合には結論も異なり得ることに留意する必要がある。また、各設例は、会計基準及び本適用指針における借手のリース期間の判断に資するために示すものであり、借地借家法等の法的解釈を示すものではない。
[設例8-1] 普通借家契約(延長オプションを含むか否かの判断)
前提条件
1. A 社(借手)は、B社(貸手)と建物の賃貸借契約(普通借家契約)を締結した。
2. A 社は、第5項に従って、当該契約がリースを含むと判断した。
3. 当該賃貸借契約の契約期間は1年である。ただし、A社が3か月前に解約の旨を通知すれば契約を解約できる。
4. 貸手は、借地借家法上、正当な事由があると認められる場合、契約期間満了の6か月前までの間に借手に契約を更新しない旨の通知をすることができるが、B社が更新を拒絶する正当な事由があると認められるとは考えられない。
5. 上記以外に考慮すべき要因はないものとする。
延長オプションを含むか否かの判断
(1) 契約期間は1年であるが、借地借家法により、貸手は、正当な事由があると認められる場合でなければ、更新の拒絶の通知を行うことができない。
(2) 前提条件4より、B社が更新を拒絶する正当な事由があると認められるとは考えられないとされており、A社は、借地借家法を根拠として、契約期間である1年を超える期間について借手のリース期間を決定するための延長オプションを有すると判断した。
(3) A社は、借手のリース期間を決定するにあたっては、解約不能期間である3か月を超えて、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を考慮することとなる(会計基準第31項)。
(4) A社が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかは、経済的インセンティブを生じさせる要因の有無を総合的に勘案して評価し、判断する必要がある([設例8-2]から[設例8-5])。
[設例8-2] 普通借家契約(延長オプションを行使することが合理的に確実である場合(1))
前提条件
1. A 社(借手)は、X事業の店舗として使用するため、B社(貸手)が保有する建物の店舗用スペースについて、B社と賃貸借契約(普通借家契約)を締結した。
2. A 社は、第5項に従って、当該契約がリースを含むと判断した。
3. 当該賃貸借契約の契約期間は1年であり、A社は1年間の途中で当該契約を解約することはできない。A 社は、1 年が経過した後は、更新時の市場レートの賃料で当該契約を
毎年更新することができる。また、延長オプションの行使条件は付されておらず、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件については特に設定されていない。
4. A 社は、リース開始日において当該店舗に対して重要な建物附属設備を設置した。A 社は、当該建物附属設備の物理的使用可能期間を10年と見積っている。
5. A 社の X 事業では、営業上の観点から定期的なリニューアルを必要としており、概ね5年で当該建物附属設備の一部について入替えのための除却と追加コストが発生する。
6. 当該店舗は戦略的に重要な店舗ではなく、損益の状況によっては撤退することがあり得る。
借手のリース期間の決定
(解約不能期間の決定)
(1)前提条件3より、A社は、賃貸借契約の契約期間である1年間の途中で解約することはできないため、当該契約における解約不能期間は1年であると判断した。また、1年経過後、当該契約を毎年更新することができるため、1年を超える期間について借手のリース期間を決定するために考慮すべき延長オプションを有すると判断した。これを踏まえて、A 社は、借手のリース期間の決定にあたって、当該解約不能期間を超えて、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を考慮することとなる(会計基準第31項)。
(前提条件の分析)
(2)A 社は、行使することが合理的に確実である延長オプション又は行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を決定するにあたって、例えば、次の要因を考
慮する(本適用指針第17項参照)。
① 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
② 大幅な賃借設備の改良の有無
③ リースの解約に関連して生じるコスト
④ 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
⑤ 延長オプション又は解約オプションの行使条件
(3)(2)①(本適用指針第17項(1))の要因については、前提条件3のとおり、A社は、更新時の市場レートの賃料で当該契約を更新することができ、また、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件が特に付されていないことから、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(4)(2)②及び③(本適用指針第17項(2)及び(3))の要因については、前提条件4のとおり、A 社は、リース開始日において当該店舗に対して重要な建物附属設備を設置していることから、大幅な賃借設備の改良を行っていると考えた。また、この状況において延長オプションを行使しない場合には建物附属設備が除却されるため、延長オプションを行使する経済的インセンティブがあると判断した。一方、前提条件5のとおり、A社のX事業では、営業上の観点から定期的に店舗のリニューアルを行う必要があり、概ね5年で当該建物附属設備の一部について入替えのため除却と追加コストの発生が見込まれる。したがって、A
社は経済的インセンティブの観点から当該店舗の損益状況によってはリニューアルを行ってまで延長オプションを行使しない可能性があると判断した。
(5)(2)④(本適用指針第17項(4))の要因については、前提条件6のとおり、当該店舗は戦略的に重要な店舗ではなく、損益の状況によっては撤退することがあり得るため、A社は企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くないと判断した。
(6)(2)⑤(本適用指針第17項(5))の要因については、前提条件3のとおり、延長オプションの行使条件は付されていないため、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(借手のリース期間の決定)
(7)A 社は、リース開始日において借手のリース期間として確実である1年の解約不能期間を出発点として、(3)から(6)の経済的インセンティブを生じさせる要因の有無を総合的に勘案して評価し、その期間までは延長する可能性が合理的に確実といえるまで高いが、その期間を超えると合理的に確実よりは延長する可能性が低下すると判断するその期間を借手のリース期間として決定する。
(8)ここで、A社は、自社のビジネスモデルに基づき現実的に想定し得る次の2つのシナリオについて検討を行った。
(シナリオ1)5年経過時点まで延長オプションを行使する。
(シナリオ2)10年経過時点まで延長オプションを行使する。
(9) まずシナリオ1について、当該店舗に対して重要な建物附属設備を設置している状況において早期に延長オプションを行使しない場合には建物附属設備が除却されるため、解約不能期間の経過後、店舗のリニューアルを行う前までの期間(5年間)については、延長オプションを行使する可能性は合理的に確実よりも高いと判断した。
(10) 次にシナリオ2について、5年経過後に店舗のリニューアルを行い追加コストが必要となるが、当該店舗は戦略的に重要な店舗ではなく企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くない状況において店舗のリニューアルを行ってまで延長オプションを行使するかどうかは当該店舗の損益の状況次第であることから、A社は、シナリオ2の10年経過時点まで延長オプションを行使する可能性は、シナリオ1の5年経過時点まで延長オプションを行使する可能性よりも相対的に低く、合理的に確実よりも低いと判断した。
(11) 以上から、A 社は、借手のリース期間を 5 年と決定した。これを図示すると、次の[図8-2]のとおりとなる。
[設例8-3] 普通借家契約(延長オプションを行使することが合理的に確実である場合(2))
前提条件
1. A 社(借手)は、X事業の店舗として使用するため、B社(貸手)が保有する建物の店舗用スペースについて、B社と賃貸借契約(普通借家契約)を締結した。
2. A 社は、第5項に従って、当該契約がリースを含むと判断した。
3. 当該賃貸借契約の契約期間は1年であり、A社は1年間の途中で当該契約を解約することはできない。A 社は、1 年が経過した後は、更新時の市場レートの賃料で当該契約を
毎年更新することができる。また、延長オプションの行使条件は付されておらず、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件については特に設定されていない。
4. A 社は、リース開始日において当該店舗を戦略的に重要な店舗の一つと位置付けており、他の店舗に比べて多額の投資を行い重要な建物附属設備を設置した。A社は、当該建物附属設備の物理的使用可能期間を10年と見積っている。また、当該店舗での営業を10年目以後も継続する場合には、改めて同様の建物附属設備の設置が必要となる。
5. A 社の X 事業では、営業上の観点から定期的なリニューアルを必要としており、概ね5年で当該建物附属設備の一部について入替えのための除却と追加コストが発生する。
6. 当該店舗の立地は現在のA社のX事業にとって最良と考えられるため、A社は戦略的に重要な店舗の一つとして営業することを想定しており、店舗の損益の状況のみで撤退の判断は行わないとしている。
借手のリース期間の決定
(解約不能期間の決定)
(1) 前提条件3より、A社は賃貸借契約の契約期間である1年間の途中で解約することはできないため、当該契約における解約不能期間は1年であると判断した。また、1年経過後は当該契約を毎年更新することができるため、1年を超える期間について借手のリース期間を決定するために考慮すべき延長オプションを有すると判断した。これを踏まえて、A社は借手のリース期間の決定にあたって、当該解約不能期間を超えて、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を考慮することとなる(会計基準第31項)。
(前提条件の分析)
(2) A社は、行使することが合理的に確実である延長オプション又は行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を決定するにあたって、例えば、本適用指針第17 項に例示する要因を考慮する。
(3) 本適用指針第 17 項(1)の要因については、前提条件 3 のとおり、A 社は更新時の市場レートの賃料で当該契約を更新することができ、また、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件が特に付されていないことから、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(4) 本適用指針第17項(2)及び(3)の要因については、前提条件4のとおり、A社は、リース開始日において当該店舗を戦略的に重要な店舗の一つと位置付けており、他の店舗に比べて多額の投資を行い重要な建物附属設備を設置していることから、大幅な賃借設備の改良を行っていると考えた。また、この状況において延長オプションを行使しない場合には建物附属設備が除却されるため、延長オプションを行使する経済的インセンティブがあると判断した。一方、前提条件5のとおり、A社のX事業では、営業上の観点から定期的なリニューアルを行う必要があり、概ね5年で当該建物附属設備の一部について入替えのための除却と追加コストの発生が見込まれる。したがって、A社は経済的インセンティブの観点から延長オプションを行使しない可能性があると判断した。
(5) 本適用指針第17項(4)の要因については、前提条件6のとおり、店舗の立地がX事業にとって戦略的に重要な店舗ではないため、A社は企業の事業内容に照らした原資産の重要
性は必ずしも高くないと判断した。
(6)本適用指針第17項(5)の要因については、前提条件3のとおり、解約オプションの行使条件は付されていないため、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(7)その他、前提条件7に示されたとおり、A社はX事業を10年以上継続することを見込んでいる。また、前提条件5に示されたとおり、A社は20年後に同様の建物に建て替えることが可能であるが、建替えの計画については今後検討する予定である。
(借手のリース期間の決定)
(8)A 社は、リース開始日において借手のリース期間として確実である6か月の解約不能期間を出発点として、(3)から(6)の経済的インセンティブを生じさせる要因の有無を総合的に勘案して評価し、その期間までは解約しない可能性が合理的に確実といえるまで高いが、その期間を超えると合理的に確実よりは解約しない可能性が低下すると判断するその期間を借手のリース期間として決定する。
(9)ここでA社は、自社のビジネスモデルに基づき現実的に想定し得る次の2つのシナリオについて検討を行った。
(シナリオ1)20年経過時点まで解約オプションを行使しない。
(シナリオ2)20年経過時点を超えて解約オプションを行使せず契約を継続する。
(10) まずシナリオ 1 について、20 年経過時点までに解約オプションを行使した場合には建物の解体に関連するコストが発生する。また、収益が計画どおりに上がらない場合には建物を残りの物理的使用可能期間について転貸することを予定している。このため、A社は、建物の物理的使用可能期間である20年間は現在のX事業又は転貸により建物を使用するとして、20 年経過時点まで解約オプションを行使しない可能性は合理的に確実よりも高いと判断した。
(11) 次にシナリオ 2 について、20 年を超えて当該土地の使用を続ける場合、店舗建物の建替えが必要となり、当該建替えコストを考慮するとシナリオ2の20年経過時点を超えて解約オプションを行使しない可能性は、シナリオ1の20年経過時点まで解約オプションを行使しない可能性よりも相対的に低く、合理的に確実よりも低いと判断した。
(12) 以上から、A社は、借手のリース期間を20年と決定した。これを図示すると、次の[図8-4]のとおりとなる。
[設例8-4] 普通借地契約(解約オプションを行使しないことが合理的に確実である場合)
前提条件
1. A 社(借手)は、安定的に展開しているX事業における新店舗を出店するために、店舗として使用する建物を建設するための土地について、B社(貸手)と賃貸借契約(普通借地契約)を締結した。
2. A 社は、第5項に従って、当該契約がリースを含むと判断した。
3. 当該賃貸借契約の契約期間は40年である。ただし、A社が6か月前に解約の旨を通知すれば契約を解約できる。また、解約オプションの行使条件は付されておらず、解約オプションの対象期間に係るその他の契約条件については特に設定されていない。
4. A 社は、建物の物理的使用可能期間を20年と見積っている。
5. A 社は、20年後に同様の建物に建て替えることが可能であるが、当該賃貸借契約の開始時と同程度の投資が必要であり、建替えの計画については、今後検討する予定である。
6.A 社のX事業における店舗の平均賃借期間は25年である。
7. A 社は、当該賃貸借契約の開始時点における事業計画において、X事業を10年以上継続することを見込んでいる。X事業の収益は安定しているため、事業計画を達成する可能性は高いと考えている。
8. 新店舗の立地は、交通の便の良い繁華街であり、他の事業に容易に転用することができる。また、これまでX事業を中心に展開してきた地域ではあるが、戦略的に重要な店舗ではないため、A社は、店舗の収益が計画どおりに上がらない場合、建物の解体費用など解約に関連するコストを考慮して店舗の残りの物理的使用可能期間について転貸することを予定している。
借手のリース期間の決定
(解約不能期間の決定)
(1)前提条件3より、A社が6か月前に解約の旨を通知すれば契約を解約できるとされることから、当該賃貸借契約における解約不能期間は6か月であると判断した。また、6か月を超える期間について借手のリース期間を決定するために考慮すべき解約オプションを有すると判断した。これを踏まえて、A社は、借手のリース期間の決定にあたって、当該解約不能期間を超えて、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を考慮することとなる(会計基準第31項)。
(前提条件の分析)
(2)A 社は、行使することが合理的に確実である延長オプション又は行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を決定するにあたって、例えば、本適用指針第17 項に例示する要因を考慮する。
(3)本適用指針第17項(1)の要因については、前提条件3のとおり、A社は6か月前に解約の旨を通知すれば契約を解約することができ、また、解約オプションの対象期間に係るその他の契約条件が特に付されていないことから、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(4)本適用指針第17項(2)及び(3)の要因については、前提条件1のとおり、A社は当該土地に店舗用の建物を建設しており、途中で賃貸借契約を解約した場合には建物を除却し、その解体費用が発生する。この状況においてこれらのコストを負担してまで解約するかどうかという観点から A 社は解約オプションを行使しない経済的インセンティブがあると判断した。加えて、前提条件8のとおり、新店舗の立地は交通の便の良い繁華街であり、他の事業に容易に転用することができるため、当該観点からもA社は解約オプションを行使しない経済的インセンティブがあると判断した。
(5)本適用指針第17項(4)の要因については、前提条件8のとおり、当該店舗はX事業にとって戦略的に重要な店舗ではないため、A社は企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くないと判断した。
(6)本適用指針第17項(5)の要因については、前提条件3のとおり、解約オプションの行使条件は付されていないため、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(7)その他、前提条件7に示されたとおり、A社はX事業を10年以上継続することを見込んでいる。また、前提条件5に示されたとおり、A社は20年後に同様の建物に建て替えることが可能であるが、建替えの計画については今後検討する予定である。
(借手のリース期間の決定)
(8)A 社は、リース開始日において借手のリース期間として確実である6か月の解約不能期間を出発点として、(3)から(6)の経済的インセンティブを生じさせる要因の有無を総合的に勘案して評価し、その期間までは解約しない可能性が合理的に確実といえるまで高いが、その期間を超えると合理的に確実よりは解約しない可能性が低下すると判断するその期間を借手のリース期間として決定する。
(9)ここでA社は、自社のビジネスモデルに基づき現実的に想定し得る次の2つのシナリオについて検討を行った。
(シナリオ1)20年経過時点まで解約オプションを行使しない。
(シナリオ2)20年経過時点を超えて解約オプションを行使せず契約を継続する。
(10) まずシナリオ 1 について、20 年経過時点までに解約オプションを行使した場合には建物の解体に関連するコストが発生する。また、収益が計画どおりに上がらない場合には建物を残りの物理的使用可能期間について転貸することを予定している。このため、A社は、建物の物理的使用可能期間である20年間は現在のX事業又は転貸により建物を使用するとして、20 年経過時点まで解約オプションを行使しない可能性は合理的に確実よりも高いと判断した。
(11) 次にシナリオ 2 について、20 年を超えて当該土地の使用を続ける場合、店舗建物の建替えが必要となり、当該建替えコストを考慮するとシナリオ2の20年経過時点を超えて解約オプションを行使しない可能性は、シナリオ1の20年経過時点まで解約オプションを行使しない可能性よりも相対的に低く、合理的に確実よりも低いと判断した。
(12) 以上から、A社は、借手のリース期間を20年と決定した。これを図示すると、次の[図
8-4]のとおりとなる。
[設例8-5] 普通借家契約(経済的インセンティブとして考慮すべきものが特にない場合)
前提条件
1. A 社(借手)は、B社(貸手)とオフィス(建物)の賃貸借契約(普通借家契約)を締結
した。
2. A 社は、第5項に従って、当該契約がリースを含むと判断した。
3. 当該賃貸借契約の契約期間は5年であり、A社は5年間の途中で当該契約を解約することはできない。A 社は、5 年が経過した後は、更新時の市場レートの賃料で当該契約を
更新することができる。また、延長オプションの行使条件は付されておらず、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件は特に設定されていない。
4. A 社は、当該オフィスに対して重要な建物附属設備の設置は行わない。
5. 当該オフィスの立地は、現在のA社の事業に適しているものの、他に代替する立地を探すことも可能である。A社は、過去に他の立地においてオフィスを10年間賃借していた経験を有する。
借手のリース期間の決定
(解約不能期間の決定)
(1)前提条件3より、A社は賃貸借契約の契約期間である5年間の途中で解約することはできないため、当該契約における解約不能期間は5年であると判断した。また、5年経過後、当該契約を更新することができるため、5年を超える期間について借手のリース期間を決定するために考慮すべき延長オプションを有すると判断した。これを踏まえて、A社は借手のリース期間の決定にあたって、当該解約不能期間を超えて、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を考慮することとなる(会計基準第31項)。
(前提条件の分析)
(2)A 社は、行使することが合理的に確実である延長オプション又は行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を決定するにあたって、例えば、本適用指針第17 項に例示する要因を考慮する。
(3)本適用指針第 17 項(1)の要因については、前提条件 3 のとおり、A 社は更新時の市場レートの賃料で当該契約を更新することができ、また、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件が特に付されていないことから、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(4)本適用指針第17項(2)及び(3)の要因については、前提条件4のとおり、A社は重要な建物附属設備の設置は行わないため、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(5)本適用指針第17項(4)の要因については、前提条件5のとおり、オフィスの立地は現在のA社の事業に適しているものの、他に代替する立地を探すことが可能であるため、A社は企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くないと判断した。
(6)本適用指針第17項(5)の要因については、前提条件3のとおり、賃貸借契約には延長オプションの行使条件は付されておらず、A社は経済的インセンティブの観点から特に考慮すべきものはないと判断した。
(7)その他、前提条件5に示されたとおり、A社は過去に他の立地においてオフィスを10年間賃借していた経験を有する。
(借手のリース期間の決定)
(8)A 社は、リース開始日において借手のリース期間として確実である5年の解約不能期間を出発点として、(3)から(6)の経済的インセンティブを生じさせる要因の有無を総合的に勘案して評価し、その期間までは延長する可能性が合理的に確実といえるまで高いが、その期間を超えると合理的に確実よりは延長する可能性が低下すると判断するその期間を借手のリース期間として決定する。
(9)ここで、A社は過去に他の立地においてオフィスを10年間賃借していた経験があるが、他に代替する立地を探すことが可能である状況も踏まえ、将来の見積りに焦点を当てると経済的インセンティブを生じさせる要因として考慮すべきものが特にないため、A 社は、解約不能期間である 5 年を超えてリースの延長オプションを行使する可能性は合理的に確実より低いと判断した。
(10) 以上から、A社は、借手のリース期間を5年と決定した。
(出所:企業会計基準委員会)