税務個別論点

簡易課税制度①

簡易課税制度とは

簡易課税制度とは中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、事業者の選択により、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です。

インボイス制度の導入が決定して以降、インボイス制度の適用を受けることになった個人事業主又は法人の消費税に対する関心は相対的に上がり、消費税申告書が増加することが見込まれています。

消費税申告のうち原則的方法により申告を行うには、課税売上げと課税仕入れ等を正確に区分する必要がありますが、当該区分にはある程度正確な知識が必要となります。

なお、消費税の申告については知りたい方は以下をご参照ください。

消費税申告

消費税及び地方税の申告書について 消費税法は、厳密には消費税及び地方消費税に区分されます。消費税が計算され、当該消費税額に基づき地方消費税の金額が決定します。 消費税法では課税事業者になると、その課税 ...

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しかしながら消費税申告書を行うためには、消費税法に関する知識が必要となりますが通常、小規模事業の個人事業主又は法人がそのような細かい知識を持ち合わせことは少ないかと思います。

まして小規模事業を営んでいる個人事業主や法人は、事業に対して時間をかけることに本業に集中したいと要望がある一方で、税理士等を雇うだけの余裕はないという方もいらっしゃるのではと想像します。

このような、消費税申告に関して納税事務負担を配慮する観点から、事業者の選択により、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度として簡易課税制度があります。

簡易課税制度は、消費税納める義務のある課税事業者である個人事業主又は法人がその納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することによりその適用を受けることができますが、基準期間における課税売上高が5,000万円以下であることも要求されます。

簡易課税制度の適用が認められると売上げに係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められたみなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から控除することになります。

 

簡易課税制度の計算方法

上記の通り、簡易課税制度の適用が認められると原則の課税売上げ及び課税仕入れをそれぞれ計算したうえで控除する計算に代えて、売上げに係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められたみなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から控除する方法が認められます。

具体的には以下の通りです。

課税売上げ:原則的な方法

課税仕入れ等:(課税標準額に対する消費税額ー売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額)×みなし仕入率

 

上記の算式を見ていただければ簡易課税制度のイメージがつきやすいかと思います。ポイントは、課税売上げ(返品等があった場合の当該消費税額控除後)にみなし仕入率を乗じることにより算定することが可能で課税仕入れの計算を簡便的に行うことができます。

それでは当該みなし仕入率はどのように設定されているか以下、具体的にみていきましょう。

 

みなし仕入率

みなし仕入れ率は以下の通りです。

各種業種ごとにそれぞれみなし仕入率が設定されています。

事業区分 みなし仕入率
第1種事業(卸売業) 90%
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) 80%
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) 70%
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) 60%
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) 50%
第6種事業(不動産業) 40%

上記の区分は個人事業主又は法人が行う課税資産の譲渡等ごとに行うこととなります。このため、複数の事業(第4種事業のうち2以上の事業を行っている場合を含む)を行っている個人事業主又は法人は原則としてみなし仕入率を以下の計算式に基づき計算することとなります。

なお各種事業の詳細な意義及びその取扱いについては、消費税法施行令第57条6項及び消費税法基本通達13-2-2~9に記載がありますので、必要に応じて確認ください。

≪複数事業を行っている事業者のみなし仕入率≫

(原則法)

[算式]

みなし仕入率=(第1種事業者に係る消費税額×90%+第2種事業者に係る消費税額×80%+第1種事業者に係る消費税額×70%+第1種事業者に係る消費税額×60%+第1種事業者に係る消費税額×50%+第1種事業者に係る消費税額×40%)÷(第1種事業に係る消費税額+第2種事業に係る消費税額+第3種事業に係る消費税額+第4種事業に係る消費税額+第5種事業に係る消費税額+第6種事業に係る消費税額)

なお、上記は簡易課税制度の原則的な計算方法となりますが、上記以外にいわゆる75%ルールというものがあります。

(簡便法)

次の①および②のいずれにも該当しない場合は、次の算式により計算しても差し支えありません。

① 貸倒回収額がある場合

② 売上対価の返還等がある場合で、各種事業に係る消費税額からそれぞれの事業の売上対価の返還等に係る消費税額を控除して控除しきれない場合

[算式]

仕入控除税額=第1種事業者に係る消費税額×90%+第2種事業者に係る消費税額×80%+第1種事業者に係る消費税額×70%+第1種事業者に係る消費税額×60%+第1種事業者に係る消費税額×50%+第1種事業者に係る消費税額×40%

 

なお、2種類以上の事業を行っている場合で、そのうち1種類の事業又は2種類の事業の課税売上高が全体の占める割合の75%以上を占める場合については、特例計算により以下みなし仕入率を適用することも認められています。

【2種類以上の事業を行っている事業者】

課税売上高が75%以上の事業 課税売上高の全額に対して適用する

みなし仕入率

第1種事業 90%
第2種事業 80%
第3種事業 70%
第4種事業 60%
第5種事業 50%
第6種事業 40%

 

(参考文献:図解消費税 一般財団法人大蔵財務協会)

また、3種類以上の事業営む事業者については、上記とは別に特例計算が認められています。

簡易課税制度を適用することにより、適法な節税ができる場合もありますので、採用を検討している会社は顧問税理士等にご相談することをお勧めいたします。

 

事業を区分していない場合の取扱い

個人事業主又は法人によっては、2種類以上の事業を営んでいる場合でも、課税売上げを事業ごとに区分していない場合あるかと思いますが、この区分をしていない部分については、その区分していない事業のうち一番低いみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算します。

 

 

 

 

 

 

 

 

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公認会計士_TATA

大手監査法人で製造業、金融業、小売業、電力業、介護、人材派遣業、の幅広いクライアントの監査に10年以上従事し、中小会計事務所のコンサルタントの経験したのちに、会社を設立。 現在は、各種コンサルタント業務に従事している傍ら、会計・税務に関する情報を発信している。

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