会計個別論点

【組織再編】株式移転

株式移転ってなぁに?

株式移転とは、どんなものでしょうか。あまりなじみがない言葉なので、さっぱりわからないという方も少なくないかもしれません。

それもそのはずで、株式移転の取引自体それほど頻繁に出てくる取引ではありません。ここでは、株式移転の基礎について理解を深めていただけば幸いです。

 

株式移転とは、1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう(会社法2条32号)。

これを読んで株式移転のイメージできた人は、相当な理解力があるかと思います。

この時点でわからなくても大丈夫です。

以下は、株式移転行った場合にどうのような流れで行われるかを図にしたものとなります。

【前提条件】

(1)株式移転前

①A社株主はA社株式を100%保有しています。

②B社株主はB社株式を100%保有しています。

 

 

(2)株式移転実施のため新設株式会社設立

株式移転のための新設会社を設立(C社)し株式移転を実施。

具体的には、A社株主及びB社株主はA株式及びB社株式をC社に移転しその対価としてC社株式を受取ります。

 

 

(3)株式移転後の各社株式の所在

株式交換後の各社の株式所在は以下の通りです。

通常は以下の説明は省略されることが多いので、わかる人は無視して(4)の確認してもらえば足りるかと思います。

 

 

(4)株式移転後の資本関係

 

 

上記のように株式移転により、2つA社、B社はともに、新設会社であるC社という1つの会社の子会社となり、A社およびB社の株主は新設会社であるC社の株主になります。

株主移転のわかりにくい箇所は、新設の親会社(上表でいうところのC社)が出てくるところにあるかと思います。

株式移転と比較される組織再編には、株式交換がありますが、株式交換は既存の会社間との取引であるのに対して、株式移転は、新規に会社を設立したうえで、その会社に株式を持たせるという点がポイントとなります。

それでは、どのような場面でこの株式移転は使われるのでしょうか。

株主移転はホールディング会社といった持株会社を設立場合に実務上使用される組織再編となります。

例えば、前田建設工業と前田道路、前田製作所は、2021年10月1日付け株式移転により統合することとしています。

また冒頭で申し上げた会社法上における定義である「株式移転とは、1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう(会社法2条32号)。」を上記に例示当てはめると以下のようになります。

「1又は2以上の株式会社」というのは、上記例示言うところの「A社又はB社」となります。

また「その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる」とは、上記例示で言うところのA社株主とB社株主が新たに設立したC社に株式を移転させ、その対価としてC社株式を受け取ることをいいます。

 

株式移転の会計処理

それでは、具体的に株式移転の場合、どのように会計処理される見ていくことにしましょう。

株式移転において、企業結合に関する会計基準上、取得か共通支配下の取引かによって、その会計処理が異なることがポイントとなります。

以下、順次説明を補足させて頂きます。

 

 

※1 共通支配下の取引の会計処理

まずは実務上で比較的多く出てくる共通支配下の取引の会計処理についてみていくことにしましょう。

共通支配下の取引という言葉自体聞きなれない言葉であるため、イメージがわきにくいかと思います。

「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう(企業結合に関する会計基準16項)。

難しい言葉書かれていますが、株式移転する前並びに後において、同一の株主に支配されており、かつその後も支配し続けていることが、ポイントとなります。

例えば以下のようにホールディング会社を設立するような場合は、共通支配下の取引に該当することなります(支配継続要件は満たすものとする)。

 

(1)株式移転前

(2)株式移転実施のため新設株式会社設立

(3)株式移転後の各社株式の所在

 

(4)株式移転後

 

 

上記のように(1)株式移転前と(4)株式移転後を比較すると、A社は、C社を通じて旧A株主に支配されていることとなり、株式移転前と株式移転後における実質的株主に変更はない(A社はC社を通じて、旧A株主の意思決定に従うことになる)ことから、共通支配下の取引に該当することなります。

共通支配下の取引に該当した場合の仕訳は、以下のようになります。

 

C社は会社設立時にA社株式を取得することとなりますが、当該株式の取得原価は簡単にいうと簿価となります。

なお、上記で簿価という表現をさせていただきましたが、正確には、以下により決定されます。

簿価を引き継ぐと理解いただいても概ね差し支えありませんので、必要に応じてご参照ください。

また払込資本については、以下の通り会社の規定に基づき決定することとなります。

・株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式) の取得原価

ア 原則的な取扱い

株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。

イ 簡便的な取扱い

株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れる子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、第 121 項(1)②と同様に、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる。

・ 株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の会計処理

株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。

増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

 

※2 取得

続いて、株式移転の企業結合取引が取得とみなされた場合の会計処理についてみていくことにしましょう。

まずは取得の定義を確認してください。

「取得」とは、ある企業が他の企業を構成又は企業を構成する事業に対する支配を獲得することをいいます。

ポイントは取得の場合、いずれかの会社が取得企業として判定され、それ以外の会社は被取得企業となります。

以下の表においては、D社が取得企業、F社を被取得企業としています。

(1)株式移転前

 

(2)株式移転後

 

 

上記のように(1)株式移転前と(2)株式移転後を比較すると、D社及びF社は、G社の子会社となり、旧D社株主及び旧E社株主は、F社株主となります。

なお、共通支配下とは異なり、被取得企業については時価に基づき評価されることとなります。

取得の取引に該当した場合の会計処理は、以下のようになります。

それでは、取得の取引に該当した場合の仕訳は、以下のようになります。

 

 

D社は取得企業ですので、取得原価は簿価となります。

一方で、E社は被取得企業に該当するため、時価で評価することとなります。

なお、上記で簿価及びという表現をさせていただきましたが、正確には、以下により決定されます。

取得企業=簿価、被取得企業=時価を引き継ぐと理解いただいても概ね差し支えありませんので、必要に応じてご参照ください。

 

(1) 子会社株式(取得企業株式)

① 原則的な取扱い

株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。

② 簡便的な取扱い

株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日に算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れた子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる。

 

(2) 子会社株式(被取得企業株式)

被取得企業株式の取得原価については、取得の対価に付随費用を加算して算定する。

付随費用の取扱いは、金融商品会計実務指針に従う。

なおD社(取得企業)及びE社(被取得企業)にとっては株主がF社に変わるだけですので、会計処理は発生せず、仕訳なしとなります。

 

まとめ

1.株式移転は新規に会社を設立したうえで、その会社に株式を持たせるという点が特徴としてある

2.株式移転は、企業結合に関する会計基準上、取得か共通支配下取引かによって、その会計処理が異なる

3.株式移転が共通支配下取引の場合は、簿価にて評価

4.株式移転が取得の場合は、時価にて評価

 

 

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

公認会計士_TATA

大手監査法人で製造業、金融業、小売業、電力業、介護、人材派遣業、の幅広いクライアントの監査に10年以上従事し、中小会計事務所のコンサルタントの経験したのちに、会社を設立。 現在は、各種コンサルタント業務に従事している傍ら、会計・税務に関する情報を発信している。

-会計個別論点