固定資産の減価償却の計上
前回の「【日商簿記3級⑫】固定資産①」において、固定資産の取得に関する仕訳を見ていきました。
固定資産には、建物、機械装置、車両運搬具、備品等があります。
これらの固定資産は使用することにより価値が減少していきます。
例えば、建物は新品もの何年か使用後のものでは、何年か使用した後のものほうが価値が減少しています。
簿記では、その価値の減少を表現するために、一定の計算方法に基づき固定資産を減価させていきます。
このような価値の減価を簿記では減価償却といい、このときに計上される費用を減価償却費といいます。
少し難しい説明をしましたが、ポイントは以下の通りです。これだけ抑えておけば問題ありません。
ポイント
建物等の固定資産は、使用したことによる価値減少するため減価償却費を計上する
では、具体的な仕訳を見ていきましょう。
(例題1)A社は建物110,000円で購入後、決算期において11,000円の減価償却費を計上した。
【解説】
減価償却費は、「●●費」という言葉からわかるように費用科目となります。
費用科目の増加は、借方科目に記載することなります。
でもこれだと借方=貸方となっていませんね。
簿記は必ず借方=貸方の金額が一致しますので、これだけでは解答として誤りということなります。
このため、貸方科目にも記載が必要となります。
今回は、減価償却費に対応する科目として「減価償却累計額」という科目を使用しました。
減価償却費の相手科目は「減価償却累計額」と思ってもらっても差し支えありません。
①直接法と間接法
上記のように「減価償却累計額」を使用して減価償却費を計上する方法を間接法といいます。
間接法の他に直接法があります。直接法の場合、以下の仕訳のように建物等の固定資産から直接控除することとなります。
実務上において減価償却費を計上する場合は、間接法により計上する場合が圧倒的に多いです。
間接法は、取得原価から控除することにより、総額が容易に把握できる点で優れているため、実務でも多く採用されています。
このため、直接法と間接法を両方はちょっと無理という方は、間接法をまず抑えていただけばと思います。
ちなみに直接法と間接法における貸借対照表の表示は以下の通りになります。
②減価償却費の計算方法
間接法も減価償却累計額差引後の金額100,000円となることから、直接法と同じ金額となっていることがわかります。
上記の減価償却費は11,000円と金額を記載しましたが、減価償却費の計算方法についてみていくことにしましょう。
減価償却費は、以下3つ要素により計算されることとなります。
A.取得価額
B.耐用年数
C.残存価額
それでは1つずつ説明していきますが、「【日商簿記3級⑫】固定資産①の2.固定資産の取得原価」をご参照ください。
B.耐用年数
固定資産が何年間使用できるかを見積もった年数をいいます。
簿記の試験では、耐用年数が何年かは問題に記載があります。
なお実務上は日本の場合、法人税法上で決められたの耐用年数を使用することがほとんどです。
C.残存価額
耐用年数が経過したときの予想される売却価額をいいます。
こちらも上記と同様に簿記の試験では、金額または見積方法に記載があります。
実務上は、法人税法上で決めらている残存価額を使用することがほとんどです。
④計算方法
では、具体的な計算方法を見ていくことにしましょう。
なお、計算方法については、定額法と定率法等様々な計算方法があります。
簿記3級は、定額法が対象となりますので、定額法について説明することとします。
(取得価額ー残存価額)÷耐用年数=1年分の減価償却費
上記を踏まえて具体的な例題をみていきましょう。
(例題2)A社は、決算(年1回3月末に実施)に際して当期首に取得した使用を始めた建物(取得価額110,000円、耐用年数10年、残存価額ゼロ)の減価償却を行った。
定額法により、この場合の減価償却費を求めなさい。
【計算式】
(110,000円ー0)÷10年=11,000円
どうでしょうか?計算式は思い浮かんだでしょうか。
定額法による計算は単純で買った金額(取得価額)から使える年数(耐用年数)終了時の価値(残存価額)を引いた金額を耐用年数で割ればいいという慣れてしまえば、単純な計算となります。
上記は、1年分の減価償却費となりますが、実務では会社が1年の始まりの月に常に固定資産を購入することはなく、必要なときに購入し、それに基づき減価償却費も月割りにて計算することとなります。
では、具体的な計算方法を見ていくことにしましょう。
(例題3)A社は、決算(年1回3月末に実施)に際して当期10月15日に取得し使用を始めた建物(取得価額110,000円、耐用年数10年、残存価額ゼロ)の減価償却を行った。
定額法により、この場合の減価償却費を求めなさい。
【計算式】
(1) (110,000円ー0)÷10年=11,000円
(2) 11,000円×6/12=5,500円
(1)は耐用年数に基づき計算しているので、年間の減価償却費となります(例題2)と同じ計算となります。
(例題3)では、10月15日に取得しているので、3月末での経過期間を数えると「10月、11月、12月、1月、2月、3月」の6か月となります。
このため、年間の減価償却費×6/12となります。
なお、ここで、10月15日は1か月じゃないから、日割りじゃないと思ったかたもいらっしゃるかと思います。
正確に計算すると日割りなのですが、日本の場合は、法人税法が1か月未満は1か月として計算してもよいとしていますので、(例題3)における10月についても含めることとなります。ちなみに、10月31日に取得し使用を始めた場合においても、1か月としてカウントします。
実務上においても、減価償却費について日割り計算を行うことはなく、月割り計算がスタンダードと考えてもらって問題ありません。
ちなみに、土地については減価償却という概念はありません。土地は形を変えたとしても永遠に使い続けることができるという概念に基づいているからです。
固定資産の売却
①固定資産売却損
固定資産は新しい建物を購入した等、なんからの理由で不要となった固定資産を売却することがあります。
固定資産を売却するときの処理は以下のようになります。
(例題4-1)帳簿価額99,000円の建物を90,000円で売却し、代金は現金で受け取った。
【解説】
今回は、帳簿価額99,000円の建物を90,000円で売却しています。
建物は資産に該当し、資産の減少を認識しなければならないため貸方科目に記載することとなります。
なお、帳簿価額は帳簿に記帳されている金額をいいます。
建物の売却対価として90,000円を現金で受け取っています。
現金は資産に該当し、資産の増加を認識しなければならないため借方科目に記載することになります。
でもこれだと借方=貸方となっていませんね。
簿記は必ず借方=貸方の金額が一致しますので、これだけでは解答として誤りということなります。
本例題は99,000円の帳簿価額の建物を90,000円で売却しています。99,000円のものを90,000円で売却しており、9,000円安く売っていることなります。
このため、9,000円の損が出ていることなります。
この損は費用に該当することから、借方科目に固定資産売却損を記載することとなります。
仕訳は1行だろうと2行だろうと3行だろうと4行だろうと必ず貸借は一致します。一致しないことはありえません。
このため簿記を解くときはわかるところから記載して、わからないところは差額で記載し、なんらかの科目を当てはめる方法がいいかと思います。
気楽にパズルだと思って進めてください。
なお上記例題では、建物の帳簿価額99,000円と取得価額から減価償却費を控除した後の金額である直接法とした例題となっていましたので、間接法の場合も見ていきましょう。
(例題4-2)建物(取得価額110,000円、減価償却累計額11,000円)を90,000円で売却し、代金は現金で受け取った
【解説】
今回も、建物(取得価額110,000円、減価償却累計額11,000円)を90,000円で売却しています。
上記との違いは、減価償却累計額があるかないかというところになります。
減価償却累計額は建物、機械装置、車両運搬具等の固定資産とセットと考えてもらって差しつかえありません。
建物の売却対価として90,000円を現金で受け取っています。
現金は資産に該当し、資産の増加を認識しなければならないため借方科目に記載することになります。
でもこれだと借方=貸方となっていませんね。
簿記は必ず借方=貸方の金額が一致しますので、これだけでは解答として誤りということなります。
本例題は99,000円(建物110,000円ー減価償却累計額11,000円)の帳簿価額の建物を90,000円で売却しています。99,000円のものを90,000円で売却しており、9,000円安く売っていることなります。
このため、9,000円の損が出ていることなります。
この損は費用に該当することから、借方科目に固定資産売却損を記載することとなります。
②固定資産売却益
先ほど、固定資産売却損の場合について見ていきました。
今後は、帳簿価額より高い値段で売却できた場合の仕訳を見ていきましょう。
(例題5-1)帳簿価額99,000円の建物を100,000円で売却し、代金は現金で受け取った
【解説】
今回は、帳簿価額99,000円の建物を100,000円で売却しています。
建物は資産に該当し、資産の減少を認識しなければならないため「①固定資産売却損」の場合と同様に貸方科目に記載することとなります。
なお、帳簿価額は帳簿に記帳されている金額をいいます。
でもこれだと借方=貸方となっていませんね。
簿記は必ず借方=貸方の金額が一致しますので、これだけでは解答として誤りということなります。
本例題は99,000円の帳簿価額の建物を100,000円で売却しています。99,000円のものを100,000円で売却しており、1,000円高く売っていることなります。
このため、1,000円の益が出ていることなります。
この益は収益に該当することから、貸方科目に固定資産売却益を記載することとなります。
なお上記例題では、建物の帳簿価額99,000円と取得価額から減価償却費を控除した後の金額である直接法とした例題となっていましたので、間接法の場合も見ていきましょう。
(例題5-2)建物(取得価額110,000円、減価償却累計額11,000円)を90,000円で売却し、代金は現金で受け取った。
【解説】
今回も、建物(取得価額110,000円、減価償却累計額11,000円)を100,000円で売却しています。
上記との違いは、減価償却累計額があるかないかというところになります。
減価償却累計額は建物、機械装置、車両運搬具等の固定資産とセットと考えてもらって差しつかえありません。
建物の売却対価として100,000円を現金で受け取っています。
現金は資産に該当し、資産の増加を認識しなければならないため借方科目に記載することになります。
でもこれだと借方=貸方となっていませんね。
簿記は必ず借方=貸方の金額が一致しますので、これだけでは解答として誤りということなります。
本例題は99,000円(建物110,000円ー減価償却累計額11,000円)の帳簿価額の建物を100,000円で売却しています。99,000円のものを100,000円で売却しており、1,000円高く売っていることなります。
このため、1,000円の益が出ていることなります。
この損は収益に該当することから、貸方科目に固定資産売却損を記載することとなります。
固定資産の除却
固定資産の除却とは、平たくいうと処分をいいます。
例えば、建物を長年使っていて、それを建て替えるとします。
この時、建替え前の旧建物の帳簿価額が1,000残っている場合、簿記においても処分をしなければなりません。
具体的な仕訳を見て理解を深めていきましょう。
(例題6)建替えのために使用しなくった建物(取得価額110,000円、減価償却累計額109,000円)を除却した。
【解説】
今回は建物がなくなるため、建物の減少を認識しなければなりません。
このため、建物は資産に該当し、その減少を認識するために貸方科目に建物を記載します。
建物は減価償却を計上する資産となりますので、セットで減価償却累計額がついてきます。
減価償却を行う建物等の固定資産と減価償却累計額はセットという点がポイントなります。
でもこれだと借方=貸方となっていませんね。
簿記は必ず借方=貸方の金額が一致しますので、これだけでは解答として誤りということなります。
本例題は建物110,000円と減価償却累計額109,000円と差額1,000を除却という処分することになりますので、その分損ができることなり費用を計上することなります。
このため、費用側の増加として借方項目に固定資産除却損を計上することとなります。
まとめ
1.固定資産の減価償却費は、固定資産の価値の減少を表現したものである
2.固定資産の減価償却費の記載方法には、直接法と間接法がある
3.固定資産を売却した際に、利益がでた場合は固定資産売却益、損がでた場合は固定資産売却損を計上する
4.固定資産を処分した場合、固定資産の取得価額と減価償却累計額との差額を費用項目として固定資産除却損を計上する